解き放たれる瞬間を目指して

剛くん今年2本目の舞台『ブエノスアイレス午前零時』が幕を開け、それと同時に、ちょうど昨年の今ごろ幕を閉じた『鉈切り丸』がDVDとして発売された。『ブエノスアイレス~』では彼が得意とする繊細で鬱屈した感情の発露とアルゼンチンタンゴでの色気を楽しみ、『鉈切り丸』では非道の限りを尽くし凶暴な生の塊のようなエネルギーを放つ姿に圧倒される。板の上に立つ森田剛に私はつくづく惚れている。この人が約10年前舞台に出会わなかったらと思うとゾッとするのだ。それはこんなに素晴らしい才能が埋もれたままになる所だったという意味もあるが、森田剛というパーソナリティに与える影響という意味でもある。

彼が舞台で活躍を始めるまで、私は彼があんなにも感受性豊かな心の持ち主だとは知らなかった。今年1本目の舞台『夜中に犬に起こった奇妙な事件』を観た後、こんな真綿に包んで抱きかかえておかなければ壊れてしまいそうな心の機微を表現出来るという事は、彼自身もまたそういったアンテナを持つ人間なのだろうと思ったのだ。舞台に出会うまでのなんとなく停滞していた数年間を経て、「お芝居がやりたい」とはっきりと言葉にしてから早8年程経つだろうか。今の彼は「解放される瞬間が楽しくて、舞台をやっている」とインタビューで答えている。人生を振り返って「もしあの時…」というのは意味の無いことだとはわかっていても、もしあの時舞台に出会わず、出会ったとしても楽しいものだと感じられなかったら彼の心は解放されずまだ迷ったままだったのかもしれない。個人の活動に張り合いを見出せず、漫然とグループとしての活動だけを続けていたら…ただそう思うと心底あのタイミングで舞台と剛くんを巡り合わせてくれた人々や、新感線のいのうえさんや橋本じゅんさんを恩人のように感じるのだ。

「その頃、まだそんなに仕事もない時で、事務所に薦められて出たのが、運良くいのうえさん演出の『荒神』だったんです。まず、声の出し方が違うとダメ出しされるところから始まって…ハマりましたね。お客さんの視線を受けて自分がどんどんその気になる面白さを感じて、もっとやりたいって思うようになりました。」(anan 2013年10月9日号)「いのうえさんに出会ってなかったら、その後舞台をそんなにやってないと思う。それぐらい、なんか"ちゃんとしないといけないんだ"っていうのを凄く感じたのかなぁ、最初の舞台で」(別冊+act vol.13)
「確かに若いころは、居場所を探すというか、目標が見えなくなるような時期があったかもしれないです。そうなると、ただそこにいる、という状態になりますよね。もちろんそれは良くないことなんですけど。自分としても、どうすればいいのか分からなくて。でも舞台に出させてもらうようになって、なんとなく、ちょっとずつ、自分を解放する喜びみたいなものを感じるようになったというか。生きてる感じがするなぁ、みたいな。(後略)」(LOOK at STAR! 2013年1月号 蜷川幸雄氏との対談より)


引用ついでに書くと、この時の蜷川氏の剛くん評がとても好きなので載せておく。
蜷川氏「理解力がすごく高いんだ。考えているんだろうけど、理屈が表に出ない演技をするからいい。森田君のそういう直感的なセンス、言語になる以前の状態をちゃんと抱え続けている能力は、持っている人がすごく少ないんだよ。(後略)」

『直感的なセンス』『言語になる以前の状態』というのは、演技に限らずコンサートでのダンスや発言など彼の魅力を表すキーワードとなるような、抽象的なようでいてとても明確な表現だと思う。私が彼の佇まいとか彼の行間に書かれたなにか、みたいなところに惹かれるのはそういう理屈ではなく言葉になる以前の状態に心を揺さぶられるのだなととても納得した。


2015年はV6結成20年の記念年であるが、剛くんが舞台に立ち始めて10年でもある。初舞台を踏んだのはメンバーの中でいちばん遅く、当時は舞台を避けていた印象すらあった彼がなぜデビュー10年目にしてその世界に飛び込んだのか、どのような心境でその決断に至ったのか、私は今でもとても気になっている。なかなか過去のことや自分の心境を話してはくれない人だから決定的なことはこれから先も明かされないだろうとは思うが、きっと『どうすればいいか分からないけど前に進みたい、自分を変えたい』この一心で、大海原に投げ出されて漂流していたような若者だった彼は舞台という目の前に流れて来た一片の板にしがみ付き、文字通り全身全霊で挑んだのだろう。そして今、数多の演出家に愛されて森田剛は毎回どんな役でもこちらの期待を軽々と超えて行く役者になり、本人も個人活動では舞台をいちばん頑張りたいと明言している。これから先どんな役をやってどんな森田剛が見られるのか、私には楽しみな気持ちしかない。その過程をこの目で確かめるため、今日も私は劇場に足を運び今日の役を食い入るように見つめるのだ。


「僕は役者じゃないから、一度ダメだったら次はない。だから毎回、失敗できないっていう気持ちでやってます。」(日本映画magazine vol.46)