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神楽坂とロイヤルホスト

ただの早稲田通りでただの坂なのにやたら賑わっている。間口が狭くて奥に長いお店がぎっしりとひしめいていて、秘密の路地に潜むようなレストランがあれば、看板もないビルの上階でひとりきりでパンを焼いている人もいる。一歩奥に行くと古くからの家が軒を連ね、子どもが走り回る公園があり、生活の雰囲気が確かに感じられる。宝探しゲームのような街、神楽坂。


私はあの坂の近くで学生時代を過ごした。

中学3年生の卒業間近、初めて同級生だけでファミレスに入ったのは神楽坂のロイヤルホストだった。たぶん今くらいの季節で、穏やかに晴れた冬の日。推薦で高校を決めていた私は、登校したものの他の同級生が入試だったため午前中だけで下校になった。同じ状況の友人2人と、きっと「なんかもったいないね」ということになったのだろう、ともかく神楽坂のロイホに入った。

今も鮮明に覚えている。坂が見える窓際の席に座って、昼下がりの緩やかな光の中で頬杖をついた友人の横顔を。話した内容は覚えていないのに、写真のようにこの風景を10年以上忘れなかったのはどうしてだろう。


ファーストフード店以外に中学生だけで、しかも真っ昼間に制服姿で入るのはなかなかの冒険だった。それでも受験が終わった弛緩した空気の中では許される気がした。あとほんの1ヶ月程度で別れてしまう友人、親しんだ街。それらと離れる寂しさを見ないようにして、いつものように怠そうにとりとめのない話をしながらも、頭のどこかでこれが最後だと感じていたのかもしれない。私にとって大切な瞬間だと切り取っていたのかもしれない。


そして別れたその街に、10数年経って戻ることになった。あの頃よりも華やかに賑わっている神楽坂に、ロイヤルホストはそのままの姿で建っていた。またお世話になりますと心の中で呟きながら、中学生の時と変わらない大好きなホットファッジサンデーを頬張った。



今週のお題「好きな街」